見つけた 犬としあわせ

こころがどきどきするもの見つけたとき、それを作品にしたり、思わずなにかの形にして人に伝えたくなります。 見つけたとき感じたしあわせ感覚がひとしずくでも誰かに伝わったら、ダブルでハッピーです。

2013/01/13

目にするものが人を変える



写真はJRのプロジェクト
「Women Are Heroes」より
ケニア 2009



JR(ジェイアール)とイニシャルで名乗り、決してサングラスを外さないパリ生まれのアーティストのことご存知ですか。
たまたま日本で朝放映のCNNのインタヴュー番組に出演しているところに遭遇し、インドの貨物列車の貨車に糊付けされたでっかく引き伸ばされたモノクロ顔写真を使った彼のプロジェクトのこと知り、こりゃすごい!と感嘆した。

17歳で自称落書きアーティストだったJRは、地下鉄で見つけた安物カメラで友だちと自分のアドベンチャーを写真に撮影しそれを壁に貼りはじめる。彼はそれを「ボクはここにいた」とビルの上から伝える旅と言っている。
それから「サイドウォークギャラリー(expo de rue)」と称し、撮った写真を街中で「展示」していたが、2005年に起きたパリ郊外の暴動事件をきっかけに世の中に対してメッセージ性を持ったプロジェクトへと進化させていく。

現在、パリとニューヨークを拠点に世界中で活動する。昨年、日本の福島に現れてモノクロ顔写真を糊付けしたトラックでプロジェクトを展開。
2007年の第54回ヴィネチアビエンナーレ、2008年の「時代の肖像展」(テート・モダン)、2011年の「パリ・デリー・ボンベイ展」(ポンピドゥー・センター)などに参加。2013年2月9日―6月2日には東京のワタリウム美術館でアジア初の個展を開催するとのことだ。

http://camp-fire.jp/projects/view/446

2011年にTED賞を受賞したときの彼のスピーチを紹介しよう
こんな感じ(一部引用)TEDのサイトで全部聞いてください

2005年パリ郊外の暴動、ボクは28ミリレンズを持ってその場所に向かった。そのレンズだと被写体に25㎝まで近づかないといけない。信頼がないと撮影できない。ル・ボスケで4枚ポートレートを撮った。それを巨大なポスターにしてパリの富裕層地域のそこらじゅうに貼った。一年後パリ市庁舎の前に展示された。かつて彼らのイメージといえば、メディアがかすめ取って歪めたものだったが、ここでは誇りを持って自分のイメージを示している。そこで気がついた、紙と糊の力と。アートは世界を変えられるのか?
一年後、中東の紛争で耳にするのはイスラエルとパレスチナの紛争のことばかり。そこで友だちのマルコと現地に行って実際のパレスチナ人と実際のイスラエル人に会うことにした。どれほど違うのか?現地に着くなりストリートに出てあちこちでいろんな人に話しかけた。そこで気づいた、メディアの伝える情報とは違うじゃないかと。同じ仕事をしているパレスチナ人とイスラエル人のポートレートを撮ることにした。タクシー運転手、弁護士、料理人など。対立する国の人間と並べて貼ることに誰もが同意してくれた。それをイスラエルとパレスチナの8つの街に貼ることにした。壁のあっち側とこっち側の両方に。史上最大の違法アート展の開幕。「Face 2 Face」と名づけた。
「Face 2 Face」をやるのは、わずか6人の友だちと2脚のハシゴ、2本のブラシ、レンタカー一台にカメラ一台、そしておよそ2000㎡の紙、あらゆる人からいろんな支援を受けた。にぎわう市場の通りで両方の国民の写真を貼るんだが、人が集まってきて「何してるの?」と尋ねる。アートのプロジェクトで同じ職業のイスラエル人とパレスチナ人なんだと言うと、いつも沈黙がある、そして少し間を置いてから「どっちの国民か見分けがつく?」と聞くことにしていた。誰も答えられない(会場から拍手が沸く)!
イスラエルの監視塔にも貼ったけど何もされなかった。使うのは紙と糊だけなので破けるし、落書きされたり汚されたりする、雨や風で剥がれるが、それでいいんだ。ちょうど4年経つがほとんどの写真が残っている。「Face 2 Face」が実証したのは不可能に思えたことが実は可能だったこと。むしろ簡単だった。視界を広げたわけではなく、想像より遠くへ行けることを証明しただけだ。
中東では美術館のない場所で製作した。道に作品を展示するという方向性がおもしろいと感じたのでさらに突き進めようと思い、美術館がひとつもない地域に行くことにした。そういう発展途上国に行くと女性がコミュニティの中心的存在、そうであってもストリートを仕切っているのは男性だ。そこにボクたちは触発されて女性の写真を貼ることで男性から女性に感謝の気持ちを表すプロジェクトを始めた。
プロジェクト名は「Women Are Heroes」さまざまな大陸に行っていろいろな話を聞いても彼女たちの複雑な葛藤を理解できるわけではない。ただ傍観するしかなく、言葉も出ず、意見も言えず、泣くしかないこともあった。彼女たちの写真を撮って、貼るだけだ。
「Women Are Heroes」は世界中を巡った。行き先のほとんどはメディアで聞いたことがあるという理由で選んだ。例えば、2008年6月リオの貧民街のひとつプロヴィデンシアで起こった軍に拘束された学生3人が敵の貧民街に連行され切り刻まれた事件。ブラジル中に衝撃が走った。その貧民街は最大の麻薬組織によって牛耳られていた。ボクはそこに行くことにした。
到着して歩き回るうちに一人の女性に出会った。ボクの本を見せると、彼女は「文化に飢えてるの。ここには文化が必要よ」と言った。まずは子どもの写真から始めた。翌日ポスターにして貼った。次の日には傷つけられていたがそれでいい、自分たちのアートだと感じて欲しい。
その次の日、広場でミーティングを開くと、殺された3人の学生につながりのある女性たちが来てくれて、母親や祖母、親友もいた、事件のことを声を大きくして訴えた。その日から貧民街に受け入れられ、撮影も進み、プロジェクトが動き出す。麻薬密売組織のボスはそこでの撮影を危惧していたから、「暴力や武器を撮影する気はない、メディアで十分見ている。ボクはここで出会ったすばらしい人たちを見せたいんだ」と言った。
これはとてもシンボリックな作品、初めて中心街から見えない作品を作った。ここは3人の学生が拘束された場所で写真は学生のひとりの祖母。だれもがプロジェクトを理解してくれて丘一面に貼ることができた。(会場から拍手)
おもしろいことに、メディアはヘリから望遠レンズで撮影するだけで中には入れない。ボクらはテレビで自分たちの作業を見たものだ、「何をしているかご存知の方はお電話を」とテロップで流れた。プロジェクトについて知るにはここの女性たちを見つけて聞くしかない。このプロジェクトはメディアと名もなき女性たちとの架け橋になった。
ボクたちは旅を続けた。アフリカ、スーダン、シエラレオネ、リベリア、ケニア、戦争で荒れたモンロビアにも行った。人々はまっすぐにやって来て何をやっているのか知りたがる。モチベーションになっているのは人々の好奇心だと思う。さらにそれが大きくなって、欲望になり、必要なものとなる。
モンロビアの橋で元反乱軍兵士が手伝ってくれた。戦争中にレイプされたという女性の写真、女性はいつでも紛争の最初の犠牲者になる。
これはケニアのキベラ、アフリカで一番大きなスラムのひとつ。2008年選挙後に暴動が起こったところ。ここでは屋根に貼った。雨漏りを防ぐために紙ではなくビニールを使った。アートが実用的になった、だから残っている。
プロジェクトのたびに映像を作るんだ。これは「Women Are Heroes」の紹介ヴィデオの一部だ。ぜひ、この映像を見てプロジェクトの意図をつかんで現地の感情をくみ取ってくれ。それもプロジェクトにとってだいじな要素。どの写真にも多くのストーリーが隠されている。
被写体の女性たちは参加することもコミュニティ内に貼られることも誇りに思っているが、「私たちのストーリーも一緒に広めてください」と頼まれた。だからそうしている。
最近、あるパブリックアートを始めた。使うのは私の作品ではなく、マン・レイやヘレン・レヴィット、ジャコメリなどの作品。その写真を使って何をするかが大事であり、貼る場所が主張を伝える。例えば、ミナレットの写真をスイスで貼った。建設禁止を支持する国民投票の数週間後に。(会場から拍手)
ガスマスクをした3人の男の写真はチェルノブイリで撮影されたものだが貼った場所は南イタリア、マフィアが時々ゴミを埋める場所だ。

アートは世界を変える。直接的に物事を変えるわけではないが、物の見方を変える。アートが変えるのは世界の見方。意見交換して議論する中立的な場を提供する。その結果として、世界を変えることができる。
何か思うところがあるなら、解決のために立ちあがってくれ。グローバルアートプロジェクトに参加してくれ。そうすれば世界をひっくり返すことができる。この場から、まさに今ここから始めて欲しい。主張を聞かせて欲しい。ポートレートを撮影しアップロードして欲しい。データはすべてウェブサイトにある。「insideoutproject.net」
目にするものが人を変える。一緒に行動すれば、全体は単なる足し算より大きくなる。世界の歴史に残るものを一緒に作り上げたい。

http://www.ted.com/talks/lang/en/jr_s_ted_prize_wish_use_art_to_turn_the_world_inside_out.html
 △JRが2001年に受賞した「TED Prize」とは
TEDは、世界の思想家や手腕家が集うカンファレンスなどを主催するビジネス界で名だたる組織。同アワードの賞金はなんと10万ドル(一千万円)。
これまでU2のボノやビル・クリントン、シェフのジェイミー・オリバーなどが受賞してきただけに、今回ストリートアーティストのJRが受賞したのは異例なこと。
「Women Are Heroes」は、"参加可能なアート"活動でもある。女性たちは写真のモデルをつとめ、子供たちはグラフィティの貼付けをしてアートに参加する。パリ近郊のスラムのビルに、中東の壁に、アフリカの壊れた橋に、虐げられる人々の激しいメッセージを感じることができる。
JRはこの活動を、自ら監督を務める映画「Women Are Heroes」に詰め込んだ。6分間のティーザー映像がvimeoにて公開されているが、この短いティザー映像の中にも、女性や子供の強烈な生を感じることができる。
音楽はマッシブ・アタックが担当。日本で上映される日が待ち遠しい。
http://white-screen.jp/?p=3763